スマホの電源をオフにする

舞台を見に行くと、開演前に必ず「携帯電話やスマホの電源を切ってください」というアナウンスが流れますよね。
ほとんどの劇場で、マナーモードでも機内モードでもなく「電源をオフにすること」を求められますが、これにはちゃんと理由があるのです。

あなたが初めて劇場に行くとき、「なんで電源から切らなきゃいけないの?」という疑問が湧いたら。もしくは観劇に慣れていない友達から「なんでいちいち電源切るの?」と質問をされたら。

ぜひこれからお話する理由を思い出してください。

今回は、観劇中に携帯・スマホの電源をオフにしなくてはいけない理由について、解説します。

「電源を切らない」のはとくに重大なマナー違反

観劇前に劇場からアナウンスされる「お願い」事項はいくつかあります。
お願いやマナーにはそれぞれ理由がありますが、中でもとくに重大なのがこの「携帯・スマホの電源を切らない」というマナー違反です。

というのも、携帯やスマホの電源が入っていると、観客、キャスト、スタッフ、その他公演に関わる全ての人が迷惑を被る可能性があるのです。
マナー違反の中でも被害者の数が最も多い、と言っても過言ではないのが「電源を切らない」問題なのです。

なぜ電源を切らないといけないの?

携帯・スマホの電源を切る理由は、大きく分けて3つあります。

◆理由1.役者の集中が削がれる

舞台の上にたった数時間だけ成立する「世界」。
それが演劇作品です。数人の登場人物と、セリフと、最小限の大道具・小道具、音響、照明。物理的には、これだけが世界の全てです。
でも役者は、演技を通して、ステージの外や劇場の外にまで広がる「もう一つの世界」を見せてくれます。

一つの「世界」を立ち上げるのは、並大抵のことではないでしょう。
長い時間をかけて稽古し、キャスト・スタッフが一致団結して作品に磨きをかけて、公演の日を迎えます。
舞台の上の役者は全員、集中力を研ぎすまして演技に臨んでいます。

そんなとき、客席でピリリッと携帯電話が鳴る。集中の糸が、ぷつんと切れます。

あなたが劇場まで来たのは、作品や役者の演技を楽しみたいからではないでしょうか。携帯電話の着信音がそれを台無しにするのです。

◆理由2.観客の集中力が削がれる

集中の糸が途切れるのは、観客も同じです。
舞台の上に展開している「もう一つの世界」に触れるためには、見る側にも集中力が必要です。
家で映画を見ている最中、ついスマホをいじってしまって、映画の世界にちっとも入り込めなかった、という経験はありませんか?

集中しているからこそ見える「世界」があります。舞台作品は、それを見るのが醍醐味です。でも携帯・スマホの着信音は、客席を一気に現実に引き戻してしまいます。

◆理由3.演出が台無しになるリスク

場面転換をする際、多くの舞台で用いられる手法が「暗転」です。
暗転とは、客席・ステージ両方の明かりを落として場内を真っ暗にし、舞台上で行われる装置の移動や役者がスタンバイする様子を観客に見せないようにする手法です。

「暗転は可能な限り短くする」というのが舞台の鉄則です。
長くても数秒、短ければほんの一瞬で装置や役者の移動が行われます。暗転中のステージ上は、音のない戦場です。

その最中に、もし客席からスマホの光が漏れたら?
暗転は台無しです。舞台の上が照らし出されて、ひょっとしたらサプライズ展開を台無しにしてしまうかもしれません。

光以外にも厄介なのが、携帯・スマホの電波です。
携帯・スマホが受発信している電波は、ステージで使われる音響機器の電波に干渉してハウリングを起こしたり、電波妨害を起こすリスクがあると言われています。

舞台役者は上演中、「インイヤーモニター(通称イヤモニ)」という器具を耳に装着しています。
イヤモニは、スタッフからの指示や音楽をワイヤレス通信により受信しています。
これらの音声を届けているのは、電波です。

携帯・スマホの電波のせいでイヤモニの電波が妨害されると、たとえば振り向くタイミングを指示する声も、ミュージカルで歌うための音楽も、キャストの耳にきちんと届かなくなってしまいます。

さらに、音響や照明など幅広い演出を電波で操作している劇場も増えてきています。
携帯・スマホの電源がオンになっていると、演出を妨害する可能性があるのです。必要なときにスポットライトが当たらない!クライマックスで音楽が流れない!といった事態も起こり得ます。

マナーモードではダメなの?

上演中の携帯・スマホの問題点は「音」「光」「電波」の3つです。この3つを遮断するためには、マナーモードではなく電源を切らなくてはいけません。

まず、音について。
マナーモードにしていても、携帯・スマホにはバイブレーション機能がついていますよね。
ヴーン・ヴーン……というモーター音は、静かな劇場内では案外大きく、また耳障りに響きます。
うっかり切り忘れたアラームやアプリの通知が音を鳴らしてしまうこともありますし、電池が切れたときに大きな音で知らせる機種もあります。
これらはたとえバイブ機能をオフにしていても、音を立てる可能性があります。

次に、光です。
着信すれば、ディスプレイが明るく光ります。カバンの中に入れていても、布地を通して光は漏れます。真っ暗な客席では少しの光も想像以上に目立つものです(かなり後方からでも「どの席で光っているか」が結構分かります!)。

そして、電波。
これはマナーモードに設定していようが、関係ありません。
携帯・スマホが電波を受発信している限り、イヤモニをはじめとする音響・映像機器の動きを妨害するリスクがあります。

マナーモードという名前ではありますが、観劇時には立派な「マナー違反」になってしまうのです。

機内モードではダメなの?

機内モードは、電波を受発信しないモードです。
「音」「光」「電波」のうち、電波によるリスクを防ぐことができる点ではマナーモードよりはまだ良いと言えるかもしれません。

しかし「音」と「光」については遮断できません。
切り忘れたアラーム、アプリの通知による音漏れ、光漏れ。こうしたリスクがあるため、やはり電源を切るのがベストです。

公演によっては機内モードで良しとされる場合もありますが、あくまでも例外ケースです。
開演前のアナウンスで「電源をお切りください」と言われたら、機内モードではなくきちんと電源を切りましょう。

まとめ

舞台は一度きりのナマモノ。やり直しがききません。
スタッフ、キャスト、観客……全員、同じ時間をやり直すことはできないのです。
台無しにしてしまったら、どうやっても責任はとれません。

一人一人がきちんと携帯・スマホの電源を切ること。
たったこれだけです。それだけで、劇場にいる全員が100%の状態で作品を届け、楽しむことができます。

もしも電源の切り方が分からない場合は、劇場スタッフに言えば教えてくれるか、預かってくれるはずです。

自分のためにも、そして大好きなキャストや大切な作品のためにも、きちんと守っていきましょう。

きらはい☆コラム 一覧へ戻る