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2018年12月31日、2.5次元ミュージカル専用劇場『AiiA 2.5 Theater Tokyo(アイア2.5シアター東京)』が閉館の運びとなりました。
この劇場はその名のとおり、たくさんの2.5次元作品が繰り返し上演された劇場です。大好きな作品や、大好きなキャストのために通いつめた思い出を持つ方も多いでしょう。

今回はAiiAシアターの歩んだ11年間の足跡と、2.5次元ファンをときに惑わせ、ときに湧かせたこの劇場の、逸話の数々についてご紹介します。

アイアシアターのなりたち

AiiA 2.5 Theater Tokyo(以下愛を込めて「アイア」と呼ばせて頂きます)は、2007年4月に「渋谷マッスルシアター」として東京都渋谷区神南にオープンしました。
座席数830席に専用カフェを併設。国立代々木競技場の一角という特異な立地に、赤・黒・白の目立つ看板が印象的な劇場でした。

もともとは「マッスルミュージカル」というアスリートを中心とした筋肉系のミュージカル作品の興行のために建設されたアイアシアターでしたが、2011年に興行主の都合により公演中止とされて以降、しばらく空き劇場として放置された状態でした。

2012年9月、この劇場を女性向けメディア事業を営むアイア株式会社が購入、『AiiA Theater Tokyo』として再オープン。さらに2015年3月からは一般社団法人日本2.5次元ミュージカル協会が借り上げ、日本初の2.5次元ミュージカル専用シアター『AiiA 2.5 Theater Tokyo』として運用を続けてきました。

2.5次元ファンの中には「気づいたらそこにあった劇場」という感覚を持っていた方もいるでしょう。アイアは約11年間、あの場所でさまざまな作品のまさに土台となってくれていたのですね。

アイアシアターで上演された主な作品

2.5次元作品の中には、アイアシアターで生まれた名作が多数あります。アイアの年表とともに、そのほんの一部をご紹介しましょう。

◆2013年◆

生まれ変わったアイアシアターの初年度となるこの年は、まだ2.5次元作品の上演は少なく、劇団・アイドル・タレントなどのFCイベント、コンサート、ストレートプレイ作品の上演、オリジナル脚本のミュージカルが中心でした。
ただ、オリジナル脚本のミュージカルの中にはすでに若手俳優中心の作品が複数含まれており、この先のアイアの姿をなんとなく想起させます。

注目すべきは、2.5次元の先駆者ネルケプランニングによる『美少女戦士セーラームーン』の上演です。セーラームーン20周年記念プロジェクトの一環として上演されたこの作品は、男女問わず多くのファンを生みました。

◆2014年◆

オリジナル脚本によるミュージカルやストレートプレイ、朗読劇などが増え始めます。

この年の上演作品で注目したいのは『ママと僕たち』。
2013年スタートしたシリーズの第2弾で、若手俳優の登竜門と言われるテニミュに出演した俳優陣が集結し、なんと生まれたばかりの赤ちゃんを演じるという画期的なモチーフで話題を呼びました。

当時人気急上昇中だった出演者の中には、今や押しも押されぬ2.5次元界のスターとなったキャストもいます。
赤ちゃんというモチーフの奇抜さ、ひたすら明るい脚本、歌詞の意味はよく分からないけれどなぜかウキウキ身体が動いてしまう楽曲……。
こんな作品には今までもこれからも出会うことができないだろうという絶妙な内容でしたが、残念ながらこの作品、初演と第2弾に関しては映像化されていません。

ただ、再演された分に関しては映像化されています。
気になる方はぜひ、再演された『ママと僕たち よちよちフェスティバル~もっかい! いち! に!~』のDVDまたはBlue-rayで内容をチェックしてみてくださいね。

◆2015年◆

この年の3月から、2.5次元ミュージカル専用劇場として本格的に2.5次元作品中心の運用が開始されました。
「専用」と銘打ってはいますが、2.5次元ミュージカル以外は一切上演しないというわけではなく、タレントのFCイベントやストレートプレイの上演も年数回程度ずつ続いていきます。
ちなみにこの頃にはすでに毎週末何らかの公演でスケジュールが埋まっており、劇場としては小柄ながらもフル回転している様子が伺えます。

注目すべきは『薄桜鬼』『K』『戦国BASARA』といった人気作品が続々と輩出されたこと。
そして後々アイアの看板作品となる2つの舞台『ミュージカル刀剣乱舞(トライアル公演)』、『ハイキュー!!』の公演がスタートしたのもこの年でした。
『ミュージカル刀剣乱舞』は2部構成で1部は従来のミュージカル、2部は数十分にも及ぶライブパフォーマンスという、2.5次元としては異例の構成で注目を集め、当日券に長蛇の列ができるほど多数の熱狂的なファンを生みました。

◆2016年◆

2.5次元作品の上演はまだまだ増えていきます。この年には『ヴァンガード』『ギャグマンガ日和』『こちら葛飾区亀有公園前派出所』『青春鉄道』といった、従来2.5次元には向かないだろうと思われていたチャレンジングな作品も続き、成功を収めます。

とくに注目したいのは、この年に上演スタートした『あんさんぶるスターズ!オン・ステージ』シリーズです。
スマホゲーム原作のこの作品はアイドルがモチーフ。
劇中にはライブシーンが度々挿入され、そのシーンになるたび客席ではペンライトをONにするカチカチという音が聞こえる珍しい舞台となりました。
お芝居では笑いと涙を、ライブシーンでは推しキャラを思いきり応援するチャンスを与えてくれるこの演出は、2.5次元ファンとの親和性が非常に高く、たちまちチケット入手困難な人気作へと上り詰めていきます。

◆2017年◆

週刊少年ジャンプ原作の人気舞台『黒子のバスケ』が上演。
別の劇場で行われた公演の続編が、アイアで行われることも増えていきます。
この年は、『劇団シャイニング(うたの☆プリンスさまっ♪)』『KING OF PRISM』など社会現象とも言える人気作品が2.5次元舞台としてアイアで上演され、注目を集めました。

◆2018年◆

この年の6月、アイアシアターの年末閉鎖が発表されます。
閉鎖に伴い2018年後半からは徐々に公演数が減り、2.5次元ファンの間で「私のラスト・アイアはあの作品だったなぁ」という思い出語りが聞こえ始めました。
代々木公園の落葉とともに店じまいの支度を始めたアイアシアター。
とは言え、この年にも『幕末Rock』『けものフレンズ』『文豪ストレイドッグス』『ツキステ。』『B-PROJECT』といった話題作の上演が相次ぎ、フィナーレにふさわしい1年間となりました。

全部実話!アイアシアターにまつわる逸話

◆当日券待ちのお客さんが座席数よりも多い!

客席数がやや少なめのアイアは、客席降りやリクエストうちわを使った応援など、観客と役者の距離が近い演出に向いていました。
とくに『ミュージカル刀剣乱舞』では第2部のレビューパートが話題を呼び、上演を重ねるごとにファンが増え、とうとう当日券(抽選制)の申し込み人数がアイアの座席数を超えるという事態に……。
演出とキャパシティのジレンマについて考えさせられる一件でした。

◆トイレがプレハブ?

もともと期間限定の劇場として作られた、アイア。
マッスルミュージカル終了後は取り壊される予定だったのか、建物全体に簡易的な作りが目立ちました。
とくにトイレは「プレハブみたい」「狭い」「ドアがなかなか開かない」など、ちょっと使いづらい点が話題になりました。

◆くしゃみで座席が一斉に揺れる

座席も簡素なパイプ椅子のような作りで、横一列が連結されていた、アイア。
「1時間でお尻が痛くなる」「一人が動くと全員の座席が動く」「くしゃみや笑いで横一列全体が揺れちゃう」と、座席の座り心地はなかなか厳しいものがありました……。
「アイアに行くときは座布団を持参する」という2.5次元ファンも多かったようです。

ただアイアの座席には良いところもあって、それは傾斜が深く、かなり後方の席からでも前の人がかぶらずステージが見やすかったこと。
「背が低くても見やすいから、私はアイアが好き」と言うファンも少なくなかったことを記しておきます。

◆シリアスなシーンで鳩の声が聞こえる

劇場を囲む壁の薄さも、たびたび話題に。
「外にいても上演中の音が聞こえる」「中で何をやっているのか全部分かる」といった冗談のような本当の話。
さらに「中で公演を見ている最中、外の工事の音が入ってきて集中できない」「静まり返ったシリアスなシーンで、外にいる鳩の声が聞こえてガックリ」なんていう逸話も続出しました。

まとめ

他にも、アイアの逸話はたくさんあります。
どの駅からも絶妙に遠い立地から、連日公演に通うことを「アイアダイエット」と揶揄されたり、『幕末Rock』や『KING OF PRISM』の上演時には作品の内容にちなんで「今度の公演でアイアの天井を吹き飛ばす!」というネタがファンや公式から発信されたりもしました。

キャパシティや設備など、課題も多かったアイアシアターですが、なんだかんだと2.5次元ファンからは愛されていたように感じます。2.5次元ファンの間では「狭い」「お尻が痛い」と笑いながら言い交わす機会は多かったものの、「2.5次元といえばアイア」というイメージが定着していたのも事実。運営方針はある意味成功していたのかもしれません。

日本2.5次元ミュージカル協会によると「今後も、当協会は国内外での2.5次元ミュージカルの需要に応えていくべく、新たな専用劇場の運用や、認知度の向上を目指し活動してまいります。」とのこと。劇場不足の中、2.5次元作品の発展に大いに貢献してくれたアイアを惜しみつつ、次世代の愛され劇場の誕生を期待して待つことにしましょう。

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