言葉というのは面白いもので、会話の相手やシチュエーションによっては、同じ言葉が真逆の意味を持ったりします。
たとえば「バカ」という言葉。もしも現実に誰かから言われたら当然「は?」と怒りがこみ上げますし、上司から言われればパワハラにもなりかねません。
でも、乙女ゲームでちょっと意地悪な推しから「バーカ」と言われたら?
……個人差はありますが、思わずキュンとしてしまう人も少なくないでしょう。
シチュエーション次第で真逆の意味に変身してしまう言葉。これを仮に反転ワードと呼びましょう。
この反転ワードが今、我々2次元~2.5次元周辺オタクの幸せ表現を席巻しています。
反転レベル1「待って」
「待って待って、これ現実?」
一瞬ではとても受け止めきれない驚きや喜びが訪れたときに、思わず漏れる反転ワード。
目の前の出来事に冷静に対処したい。いったん落ち着いて咀嚼したい。内容をちゃんと理解したい。
そんな切実な願いが「待って」の一言に込められています。
意味の反転レベルは低いものの、「これを一瞬で理解するには私の脳の容量が少なすぎるので、時間を一旦停止させたい。
否、させなくてはならない」という、オタクの本能的欲求が溢れ出しています。
反転レベル2「つらい」
本来は “苦痛に感じて耐えがたい”とか“実行するのに抵抗を覚える”などの意味を持つ「つらい」。
そこから発展して、「(推しや作品が素敵すぎるために幸せな気持ちになりすぎて)つらい」という意味で使われます。
好きな対象を見るときに、あまりにも可愛い、かっこいい、眩しい、尊い……という感情の昂りが強くなりすぎて心身にストレスがかかっている状態ですね。
この手のストレスなら24時間365日大歓迎です。
反転レベル3「しんどい」
レベル2の「つらい」とよく似た意味で使いますが、「つらい」よりもやや負荷が重いケース、または負荷が長引きそうなケースに用いられる傾向があります。
「しんどい」の本来の意味は、“疲れた”“体調がわるい”“やる気が出ない”といったネガティブなもの。
その反転ワードはオタクではない若者の間でも「ウチの彼氏がイケメンすぎてしんどい」「楽しすぎてしんどい」など、テンションが上がった際のポジティブワードとして使われています。
同じテンション上昇状態でも、オタクが使うときはもう少し深刻にしんどい場合が多いです。
つまり「(推しが眩しすぎて目も胸もつぶれてしまいそう、視界も呼吸もままならないと言っても過言ではなく、身も心も本当に)しんどい」というニュアンスが込められています。
物理的・精神的にしんどいほどの幸せを与えてくれる推し。素晴らしい。
反転レベル4「無理」
(推しが可愛すぎて、美しすぎて、格好良すぎて、)
受け止めるのが無理。
冷静でいるのが無理。
人の形を保つのが無理。
語彙を探してくるのが無理。
あらゆる点において「無理」な状態を表しています。
「私には無理だよ」とか「こんなんじゃどうせ無理……」といったネガティブなニュアンスは一切ありません。
ただただ推しの素晴らしさを言葉に変換しようとした結果、
「このような素晴らしさを表す言葉はこの世にはない、いやこの世にはあるかもしれないけれども自分の脳の中にはない、だから表現することができないのだ」
という思いが0.000026秒ほどの速度で頭の中を駆け巡った結果の「無理」です。
推しの素晴らしさをどうにか言語化しようと苦心した末「不可能である」と判断したことを示す、最上級の褒め言葉とも言えます。
反転レベル5「かわいそう」
「かわいそう」は、自分自身ではなく他のファンに対して使います。
と言っても、こちらにもネガティブな意図は一切ありません。失神しそうなほど幸せなファンサ(ファンサービス)を受けている人を見て、「もし私だったら幸せの負荷が大きすぎて生きていられないかもしれない」と想像し、思わず「かわいそう」と呟いてしまうのです。
推しからのファンサを受けるのは、ファンにとっては物凄く幸運です。でもオタクにとって幸せとはつらく、しんどく、無理なもの。
「あんな手厚いファンサを受けたら、どれだけしんどいことでしょう……待って無理、いや無理でしょあんなの、かわいそう!」という、憧憬なんだか同情なんだか自分でもよく分からない感情の発露が「かわいそう」の一言に詰まっているのです。
まとめ
知らない人が聞けばネガティブにしか聞こえない。
でもそのギャップがかえって幸せ度数の高さを強調している【反転ワード】。
言っている本人の感情としては、ある種「そのままの意味」でもあります。
複雑なオタクの心理。言葉の法則すら超越する豊かな感情の波を感じます……。
感情豊かなオタクの反転ワードの数々。今後の増殖にも要注目です。
ただし、スラングが通じない相手にはネガティブな言葉と捉えられるリスクもあります。慎重に場を選びましょう♪